すり鉢地形がゆえに東京には「谷」のつく地名が多い
渋谷、谷中のように、東京には谷のつく地名がたくさんあります。四ツ谷、市ヶ谷、阿佐ヶ谷、千駄ヶ谷、幡ヶ谷、茗荷谷(みょうがだに)、雑司ヶ谷、雪谷(ゆきがや)、祖師ヶ谷(そしがや)など各地域に谷が存在しているのです。
東京を理解するキーワードとして「すり鉢」に視点を当てると、東京の街がよく見えてきます。東京都心にみられる凹凸の谷状は、山間部にあるようなV字型ではなく、平らな台地面をえぐり取ったようなU字型をしています。谷以外の地名でも、窪や久保、沢や池が含まれているのは盆地や谷地であることが多いのです。
すり鉢地形の起伏から見る2つの法則
すり鉢状の土地から町を見るにあたり、2つの法則があげられます。
ひとつは、地形の起伏を強調するように建物が並び、丘の上には高層の建物が並び、麓には低層の建物が並ぶこと。土地の起伏が建物によりさらに増幅されていることで、都心、郊外を問わず見られます。
もうひとつは、台地と低地が断崖で隔てられて、丘の上の町と谷の町は連続性がなく、性格の異なる町が隣り合っていること。こういう町では谷の町の路地は崖で行き止まりになっていて、丘に上る道は限られるという特徴があります。
すり鉢地形の起伏と東京の街並みの関係
では地形の起伏と町はどのように関係しているのでしょうか。
江戸時代、台地には大名屋敷や武家屋敷があり、低地には町人が住み、農地として利用されました。江戸から東京になってからも、東京の地形的な特徴は大きくは変わらず、区画の大きい大名屋敷などの跡には大学、官公庁の機関、大使館、学校、病院、富裕層の大邸宅などが作られ、時代とともに建物は高層化しましたが、一方の低地は区画が小さく、小規模の建物のまま建て替えが進みました。
地理的な上下の町で異なった個性の町になり、現代に継がれているのが東京なのです。
東京の町と地形の変遷説明図
出典:皆川典久著『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(洋泉社)P37の図を元に作成
町と地形の関係。山の手台地の武家・大名屋敷は学校、病院、大使館などに、低地の町人地は下町の住宅・商業地になりました。
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